新規事業の開発時には、計画の段階でリスクとなる要素を洗い出していたとしても、後になっていくつもの課題が浮上してきます。これは既存事業に比べて、新規事業には決めきることができない曖昧な部分が多く、ゴールが明確には見えないという傾向があるためです。
仮に、その事業に関する知識が豊富な社員がメンバーにいたとしても、イレギュラーな事態を知識だけで解決するのは困難です。また、知識があっても「新規事業のメンバーには向いていない」という人も中にはいます。
一方で、新規事業に向いている人には行動や思考に共通している部分があります。人材によっては、その事業のプロフェッショナルではないものの、新規事業の課題解決に非常に役立つ能力・スキルを持っていることもあります。社内だけでは新規事業向けの人材獲得が難しい場合は、外部人材を活用するのも一つの方法です。
本記事では、新規事業の立ち上げ段階の悩みとして多い、「メンバーにどのような人材を加えればよいのか」という悩みの解になる、新規事業に向いている人の行動や思考の共通点や役立つ能力・スキルを詳しく紹介していきます。また、「向いている人」として人材を育成する方法や、人手不足で困っている企業向けに外部人材の導入方法についても紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
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新規事業の立ち上げに向いている人と向いていない人
新規事業を推進するメンバーには、知識の凄さよりも「その人自身が新規事業に向いているかどうか」を見極めることが重要となります。なぜならば、新規事業は既存事業とは違い、前例がないため、目標達成までの道筋に確定事項が少なく、どうしても不明瞭かつ未確定な部分が多くなるためです。
また、昨今は外部環境の変化やコロナ禍の影響もあり、自社のみ、あるいは社内のリソースのみで、新しい事業を成功へ導くのは非常に難しい状況だと言えます。加えて、過去に自社の売上の主軸となっていた商品・サービスを販売していた頃と比べ、市場のニーズやマーケティング手法も大きく変わってきています。つまり、社内でこれまでに蓄積した知識や、既存事業で培った経験だけでは、新規事業を成功させるのが難しいということです。
そのような背景もあり、メンバーを選ぶ際にはその人が持つ知識よりも「新規事業に向いている人かどうか」を見なくてはなりません。
そして、向いている人の行動や思考には共通点があります。「トラブルに対してどのように行動するか」「課題にぶつかった時にどのように思考するか」に注目することで、新規事業に最適な人材を選ぶことができます。また、そのような目線で選ばれた社員にとっても、新規事業はこれまでとは違うノウハウを得られるほか、自信にもつながります。新規事業に最適な人材を選び、人材育成も行っていきましょう。
新規事業と既存事業の違いは「不明確さ」
新規事業とは、これまで社内に存在していなかった商品やサービス、コンテンツを創り出すことです。もし、その新たな事業を短期間で成功させることができれば、企業の収益向上に寄与できます。一方で、既存事業とは違って、曖昧なところが多い分、「どのくらいで大成功と言えるのか」「成功を阻む課題には何があるのか」といった答えがありません。そのため、物事がうまくいかないことが新規事業ではよくあります。下記は、新規事業で起こりがちな事象の一例です。
(例)新規事業で起こりがちな「不明瞭・未確定」な事象
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このように、新規事業では既存企業よりもうまくいかないほうが普通だと言えます。
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新規事業を成功させるために必要なこと
新規事業のメンバーに経験豊富な社員がいて、さらにベンチャー勤務やスタートアップ企業の立ち上げやプロジェクトに関わった経験のある人材もいれば、成功の可能性を大幅に高められます。また、100パーセント完璧な情報が揃っていない状況でも、積極的かつ柔軟に動ける人材もいるとよいでしょう。
とはいえ、開発フェーズでの人材集めは大変です。既存事業の場合、過去の実例をもとに「どのような人材が必要か」をある程度明確にできますが、新規事業の場合は予測できない事象が起こりやすいため、対応可能なメンバー探しは難航しがちです。
急いで集めることができたとしても、メンバー間の知識の差、専門用語やコンセプトに対する理解度の差によって、連携がうまくとれなくなることもあります。
新規事業に向いていない人とは?
行動や思考の癖が、新規事業には向いていない人もいます。「せっかく選んだ新規事業のメンバーの足並みが揃わない」というときには人選ミスがあるかもしれません。事業の進捗や最終結果にも影響するため、メンバー集めの段階で、できるだけ新規事業に向いていない人を選ばないようにすることが大切です。下記に該当するかどうかを、判断の一つの目安にしてみてください。既存事業で成功を収めている人であっても、性質が当てはまる場合があります。
1. 完璧主義者
完璧主義者の性質がある人は、できない理由ばかりを挙げる傾向があります。日本人には真面目でコツコツと努力する人が多いので、そのような人は少なくありません。
新規事業は明確なことのほうが少ないので、完璧を気にしてばかりいると、事業をなかなか進められません。新規事業では完璧を目指すよりも、前進するための実践を自ら繰り返すほうが大切です。
また、完璧を目指すあまり、自分の失敗を素直に認められないという方もいます。そのため、ミスや間違いを指摘されたときには素直に受けとめられるかどうかもチェックしておきましょう。
2. これまでとは違うことを過剰に恐れてしまう人
新規事業は「不明瞭・未確定」なことが多く、計画が中盤に差し掛かるまでは「終わりが見えない」ということも少なくありません。答えもゴールもわからない中で、覚悟を持って取り組み続けられる人でないと、メンバーでいるのは難しいと言えます。
リスクをある程度恐れることは、もちろんよいことです。しかし、過剰に恐れていては事業を進められません。想定以上に進行が停滞してしまえば、競合他社に追い抜かれてしまう可能性もあります。
また、知識量が突出しているものの、行動しない性質がある人がメンバーにいると、その他のメンバーに負担がかかるため、注意が必要です。
3. 責任感がない、他責傾向の人
失敗した時に「どうすればよいか」ではなく、「いったい誰のせいか」に意識を向けて、犯人探しをしようとする人は選ばないほうがよいでしょう。
このような「他責」の傾向がある人、つまり責任感のない人がいると、事業が停滞してしまい、結果的にその人自身が業務過多となり、突然パンクしてしまうこともあり得ます。
以上が新規事業に向いていない人の特徴です。ただし、項目に当てはまる人が良くない人材というわけではありません。このような性質の根本にあるのは、実務経験の不足や、予期せぬ出来事に対する不安感という可能性もあります。そのような場合、例えば、向いていない人をあえてメンバーに加えて、経験値の高い中途採用人材や外部人材とともに働く経験を積んでもらうことによって自信をつけさせ、社内の人材を育成するという方法もあります。
ここからは、新規事業立ち上げの際のメンバー選びの基準として、どのような人が向いているのかを詳しく解説していきます。
新規事業開発に向いている人の共通点【6つのマインド】
新規事業に向いている人は、下記6つのようなマインドを持っています。このマインドが作用して、曖昧なことが多い場面でも、十分に思考し、行動していくことができる人材をぜひ探してみてください。
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1. 不確実性を許容できる人
不確実性を気にせず、前進できるような人がおすすめです。言い換えると、すべてがわからないことを恐れない人です。新規事業は明確になっていないこと、曖昧なことが多いので、それらを気にし過ぎずに、タスクを前に進められる人がいると、計画がストップしてしまう事態を回避できます。
2. チャレンジ精神の持ち主
新しいことに対して、なんでもやってみる姿勢がある人も新規事業に向いています。新規事業は既存事業に比べて変化が大きい事業となります。そのような変化を恐れずに真面目に向き合い、自ら飛び込んでいける人を探してみてください。
3. 逃げない人
新規事業でトラブルが発生したときには、柔軟に対応していくことが大切です。そのようなときにできる・できないではなく、「逃げ出さない」という信頼を寄せられる人材は貴重です。
また、逃げないということは、人との議論や人への説明を十分に行えるということでもあります。特に、事業責任者やリーダーに対しても積極的に発言できる人材がいれば、建設的な議論を繰り返しながら事業計画を詰めていくことができるので、失敗の可能性を減らせます。これは、チーム自体が正常に機能するためにも重要なことです。
■「期待している人材がいるものの、少し逃げやすい傾向が気になる」場合の対策
このような場合には、あえて新規事業を経験させてみるのも一つの方法です。逃げ場のない責任ある立場や、意思決定の場数を何度か踏ませることは、人材の育成につながります。
正直なところ、日本で働く会社員の中には、環境の変化、伝統を変えることに抵抗がある人も少なくありません。ですので、普段から社内を見回して、業務に対して高い目標を持って取り組んでいる方や、今の業務に疑問を持って、改善点を模索できるような方がいないかどうか、探してみることをおすすめします。
■これから探す場合は「根拠のない自信を持っている人」がおすすめ
探す場合には、限度はあるものの「根拠のない自信」を持っている人をメンバーにしましょう。過去に何かを達成した経験があるかどうかでみると、自己肯定感が高く、自信がある人材が見つかる傾向があります。
ただし、なんでも進めればよいということではありません。新規事業を成功させるためには、時代の流れに敏感で、日頃から自分でやってみて、その上で評価することが習慣になっている人材が見つけられれば、さらによい結果を期待できます。
4. 現実と想像を分けて考えられる人
事業リスクを最小限に抑えるためには、現在の状況をさまざまな視点から分析した上で挑戦できる人が求められます。具体的には「現実と推測を切り分けて考えられるかどうか」あるいは「論理的にわかりやすく説明できるかどうか」という部分に注目してみてください。
後述のスキル「ロジカルシンキング」に秀でた人とも言えるでしょう。
5. ベンチャー、スタートアップの経験者
新規事業では、いきなり大成功を目指す人よりも、小さな失敗に留めて、被害を最小限に抑える努力ができる人をメンバーに選ぶとよいでしょう。事業の知識や専門性はもちろん必要なものですが、リスクを想定して挑むことで、失敗が許容される範囲で取り組んでいくことができます。
例えば、事業の「立ち上げ」そのものに携わった経験がある人がメンバーにいれば心強いでしょう。新しいことを始める際に起こりがちな課題を実体験で把握しているため、同じことが起こる前に対策をとることが可能です。
6. コスト意識が高い人
新規事業は、思いのほか初期費用が膨らみがちです。しかし、メンバーに常にコストを意識した発言ができる人がいれば、見積りの時に隠れている費用にも気づくことができます。
また、コスト意識が高い方は、利益や費用を当事者目線、経営者目線で考えられる人です。思考の癖は、起業家に近いと言えます。
新規事業開発に必要とされる7つのスキル
続いて、新規事業を軌道にのせ、成功に導くために欠かせないスキルを7つ紹介していきます。
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1. 情報収集力
新規事業立ち上げ時には、あらゆる場面で情報収集が必要となります。具体的には、市場調査や競合他社のリサーチなどがあります。時には、ネット上にはない情報を、現地に赴いて探してくる力が求められることもあります。
リサーチ範囲が広い場合は、効率や負担を考え、リサーチが可能な人材を複数名メンバーに加えるとよいでしょう。また、「業界に精通した人にしかわからない」というように専門性が求められる場合は、外部人材の活用もおすすめです。
2. 課題発見力
このスキルは、起業した経験がある方や、起業する予定がある方に高い傾向があります。リスクになりそうなポイントや、事業を推進する際に不安な点などを早めに発見し、さらにそれを解決するための方法を探す力です。
課題や問題が発生しやすい新規事業では「なぜ」と疑問に思い、それを解明しようとする力が非常に役立ちます。業務改善の経験がある方や、事業のコンサルティングが得意な方もこの能力が高いと言えるでしょう。
参考:起業大国実現に向けた起業家教育における育成すべき資質・能力|三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
3. ロジカルシンキング
集めた情報を分析し、客観的に情報を捉える力で、新規事業に必要なスキルです。客観的に考えるためには、先入観を取り払って、理論的に「根拠にもとづいているかどうか」という視点をもたなければなりません。しかし、自社内の人材が分析すると、都合のよい仮説検証になる恐れがあります。
十分に分析するためには、あえて外部人材を取り入れて、第三者の目線による意見をもらうことも重要です。
4. プレゼンテーションスキル
プレゼンテーションスキルは「伝える力」のことで、説明する際にひと工夫できる方はこのスキルが高い人材です。例えば、事業関係者に事業の説明する際には「受け手に響く資料が作れるかどうか」が求められますが、それだけでなく、取引先や関連会社などにプレゼンを行う際には、相手に合わせて言葉の言い回しを変えたり、補足したりできるかも重要となります。
特に新規事業においては、社内の関係部署との折衝も発生します。そのため、資料の作成者だけでなく、「メンバー間で共有して使える、説明しやすい資料」を作成するスキルがあると、なおよいでしょう。
5. コミュニケーション力
周囲を味方につけながら、事業を進めていくスキルで、この能力が高ければ、社内外のパートナーや、顧客とのコミュニケーションを円滑に進められます。例えば、契約交渉の成功体験がある方は、このスキルが高いと言えます。
また、交渉時だけでなく、メンバー同士の日々のコミュニケーションを円滑化する役割もあります。いわゆるエキスパートと呼ばれるような専門性が高い人材でも、複数人集まると知識や理解度、専門性の違いによって連携がうまくいかないことがあります。コミュニケーション力が高い人材がいれば、そのような場面でも調整役として力を発揮するでしょう。
6. プロジェクトマネジメント(PM)
新規事業を成功に向けて進めるためには、その推進力としてPMが必要不可欠です。初めて取り組むことが多くなるので、全体の方向性を整えなくてはなりません。PMは、計画上、今しなければいけないことが何かを把握し、実際の行動に落とし込んでいきます。
また、計画どおりに進まなければ、その都度計画を練り直し、柔軟に軌道修正していくことになります。PMを担える人材が社内にいない場合は、アウトソースすることも検討してみてください。
7. リーダーシップ
前述のコミュニケーション力やPMとも似ていますが、リーダーシップというスキルは「統率力」とも言えます。それぞれの担当領域を連携しながら、計画を進めていく支援を行っていきます。
社内外からメンバー、パートナーを集めて作るチームは、効率的に動けていても、少しの行き違いやズレから取り返しのつかない問題が起こる可能性もあります。事業が空中分解してしまわないためにも、メンバーをまとめるリーダーシップのとれる人材を選ばなければなりません。なお、事業の立ち上げ時には、責任者とリーダーが兼任することもあります。
新規事業に最適なメンバーを集める3つの方法
たいてい、事業責任者がまずはリーダーを選定し、その後にメンバーを選びます。しかし、昨今は人手不足もあり、社内のみを探していては最適な人材を見つけられません。そこで最終章では、社内でのメンバーの探し方や人材の育成方法に加え、外部人材の招集方法も解説します。
方法1. 社内で探す
前述の「必要なスキル」を参考に、そのようなスキルを保有している社員を選びましょう。その際には、最終決定前に「向いていない人」の特性に当てはまっていないかどうかを十分に確認しておくことが必要です。この確認によって、人選ミスを防げます。
また、事業の開始前には、新規事業の目的や企業理念をあらためて理解してもらっておきましょう。前提条件がわかっていると、目線を合わせやすく、事業をよりスムーズに進行できます。
方法2. 社内で育成する
経験やスキルが十分ではないと判断した社員でも、時にはあえて任せてみることが必要です。自信がつくまでは、モチベーションを上げるためにも、業務の実行に至るまでのプロセスを褒めるようにしましょう。
ただし、決して丸投げはせず、ある程度の課題を与えて、使命感・やりがいを持って取り組める環境を提供することも、事業責任者の仕事の一つです。得意分野で経験を積ませられれば、別の新規事業でも活躍できる人材となっていきます。
方法3. 社外から招集する
新規事業の立ち上げ時には、多様な業務が発生します。そのため、手を動かすメンバー以外に、新規事業の立ち上げに詳しい「起業家」などをアドバイザーやコンサルタントとして招く方法もあります。事業責任者と同じ目線・役割を担える人材を加えることによって、手が回らないシーンでのサポートや代理としての進行をお願いできるため非常に安心です、
また、新規事業で特に気をつけたいコンプライアンスの観点からも、意見をもらえるでしょう。
SEEDERが新規事業を支援したプロジェクト事例はこちらから確認できます
まとめ:メンバー選びでは専門性+ソフトスキルを重視する
新規事業の立ち上げには時間と労力がかかる反面、不明瞭で未確定のことも多くあります。そのため、メンバー選びの際には、既存事業に関する知識や専門性がある方よりも、「曖昧なことにも取り組める」「チャレンジ精神がある」「逃げない」「論理的に考えられる」「コスト意識が高い」といったマインドを持つ人材を選ぶことをおすすめします。また、ベンチャー企業やスタートアップ企業で事業開発に関わった経験がある方がメンバーにいれば、失敗を最小限に抑えるための対策を講じられます。課題を個人で解決しようとせず、事業メンバー全体で補うように取り組んでみてください。
そして、新規事業に欠かせないスキルとして、「情報収集力」「課題発見力」「ロジカルシンキング」「プレゼンテーション力」「コミュニケーション力」「プロジェクトマネジメント」「リーダーシップ」をご紹介しました。PMやリーダーが計画を微調整しながら統率し、多様なメンバーとともに推進していけば、新規事業が成功する可能性は大いに高まります。
ただし、本記事でご紹介した「新規事業に向いている人」の基準をすべて満たし、スキルも兼ね備えた人材を見つけるのは大変です。社内の技術やノウハウだけでは進行が困難だと感じた場合は、早めに外部人材の活用を検討してみてください。