新規事業は前例がない分、慣れがある既存事業よりも失敗する要因は多いと言えます。そのため、新規事業の立ち上げを考えているものの、社内に知見・ノウハウがそれほどなく、不安を抱えている事業責任者の方も多いのではないでしょうか。
実際、新規事業はさまざまな要因によって、計画が途中でストップしてしまうことがあります。そして、その要因の一つが「人材の不足」です。一方で、社内で人材の確保や育成に取り組んだ企業は、新商品や新サービスの開発に成功し、業績を伸ばしています。
そこで本記事では、新規事業の開発時に起こりがちな人材に関する課題の解決策として、人材を確保するコツや社内人材の育成方法を解説していきます。さらに、新規事業の成功のために人材活用に取り組んだ事例も紹介しているため、ぜひ参考にしてみてください。
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「人材不足」は新規事業が失敗する要因となる
新規事業にはさまざまな課題がつきものです。事業の成功・失敗に関わらず、下記のような多くの課題が発生します。
(例)新規事業立ち上げ時の主な課題とその要因
主な課題 | 不足している要因 |
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社内のリソース |
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マーケティングの知見 |
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新規事業の立ち上げ経験 |
このような社内に不足しているものごとを、すべて社内だけで解決するのは非常に困難です。例えば、人材の確保は社会問題で、解消するためにはコストをかけて、社内の人材に投資し、経験も積ませる必要があります。新規事業の場合は、技術やノウハウの不足のほか、「そもそもその分野の部署や担当者が現状はない」というケースも少なくありません。
また、マーケティング分野の知見に関しても、人材不足が影響しています。最新の手法に対応していくためには、勉強時間やツール導入などのコストが不可欠です。しかし、いくら投資しても「どこまで勉強する必要があるのか」「どのようなツールを導入すればよいか」といった知識がなければ、計画はそこで停滞してしまいます。
3段目に記載している「新規事業の立ち上げ経験の不足」も、社内にノウハウを持つ人材がいないことが課題です。
以上を踏まえると、新規事業は「人材不足」によって失敗の可能性が高まっていると言えます。そして反対に、人材不足を解消することによって、新規事業を成功に導くことができます。
参考:
中小企業庁|中小企業白書
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/index.html
日本政策金融公庫総合研究所『「中小企業の新事業展開に関する調査」結果』
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings131114.pdf
既存事業に比べ、新規事業では「人材集め」に時間がかかる
人材不足は、新規事業の立ち上げ時の大きな壁です。事業規模が大きくなるのに比例して、必要な人数は増え、アサインにも時間がかかります。また、一旦集められたとしても、計画半ばでメンバーが病欠になったり、交代になったりするアクシデントも起こり得ます。
そのため、事業計画の段階で人材をどのように確保していくのかを検討しておき、行動に移していくことが必要です。社内だけで集めるのが難しい場合は、社外から経験豊富な人材を迎える準備を整えておきましょう。
新規事業を成功に導く人材集めのポイント2つ
必要な人材を獲得できなければ、後々、新規事業の失敗につながっていきます。そのため、新規事業に適した人材を社内外から集めることをおすすめします。
ポイント1. 「現実と推測を分けて考え続けられる人」を確保する
新規事業に適した人材は、経験や知識が豊富な方とは限りません。それよりも、現実と推測を分けて考え続けられる人がより適しています。
そのような人は第三者の目線で冷静に事業を見ることができるため、「この市場はやめておいたほうがいい」「後々のコストを考えると、この機能は事前に組み込んでおくべきだ」というような助言を与えてくれます。つまり、現在の状況を見極めた上で、今後起こりえる課題との調整を提案してもらえるということです。
また、そのような提案ができるということは、事業責任者やリーダー、その他取引先に対しても十分に対応できると考えられます。社内の関係部署との議論の際にも、変化に対する不安に対して、適切な回答を提示してくれるでしょう。(参考:新規事業の開発メンバーに向いている人の共通点とは?)
ポイント2. 「外部人材」によって社内の人材を育成する
外部人材を活用するメリットの1つは、社内に足りないリソースを補えるという点です。社内にその事業領域を経験していない人が多い場合でも、社外の経験豊富な人材と協力することができれば、事業の実行前からリスクや検討すべき事項を計画に織り込むことができます。加えて、事業計画の質も高められます。
そして、もう1つのメリットは社内の人材を育成できるという点です。外部人材とともに事業に取り組む中で、社内にはないノウハウを間近で見ながら、経験を積むことができます。結果的に、新規事業を通して、社内の人材が大いに成長できるでしょう。
新規事業により、社内の人材を育成する方法4つ
ここからは、社内の人材を育成する4つの方法について詳しく解説していきます。人材育成に関する課題の解決策として、ぜひ参考にしてみてください。
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方法1. 優先的に3つのスキルを伸ばす
新規事業の立ち上げ時に特に必要となるスキルは、「情報収集力」「ロジカルシンキング」「プレゼンテーション力」の3つです。どれも学習だけでは身につきづらいスキルですが、汎用性の高いため、実務を通して育成していくことを推奨します。
3つのスキルを伸ばすには、具体的な依頼と早めのフィードバックが重要
1つ目の「情報収集力」は、事業のもととなる情報を集める際に必要となります。膨大な情報の中からやみくもに検索・収集するのを待っていると、育成にも時間がかかります。そのため、集めた情報に対して適宜フィードバックを実施し、情報の精度を底上げしていきましょう。また依頼する側は、先に「どのような情報が欲しいのか」を提示してあげましょう。
2つ目の「ロジカルシンキング」は、1つ目で集めた情報をもとに、現状を明確に把握したり、仮説を立てたりする際に役立つスキルです。事実と推測が混じり合わないようにするため、情報を分析した結果を共有してもらい、認識のズレや考える際の手順などを正してあげることも育成のコツと言えます。
3つ目の「プレゼンテーション力」は、蓄積された情報を他部署や取引先などの社内外に伝えるスキルです。データや仮説立てが十分に行われていても、説明不足で理解してもらえなければ、必要な協力は得られません。場合によっては、資金援助を受けられない恐れもあります。
まずはメンバー内で方針を一致させための説明から始めて、次に育成対象の人材にプレゼンテーションを実践する機会を設けましょう。徐々に説明の場を広げていくことで、スキルを伸ばしながら、メンバーの事業理解も深められます。(参考:スキルだけではない、新規事業に向いている人材の特徴とは?)
方法2. 人材の潜在能力を引き出す育成体制を構築する
人材を育成するには、社外の人材を受け入れる体制を整えながら、社内の体制も見直していくことが重要です。ここからは、それぞれの体制構築について説明します
外部人材には適切なマッチングと十分な情報共有が必要
社外から人材を招く際には、はじめに事業に関する情報提供を十分に行い、早い段階でお互いの疑問点を解消しておきましょう。マッチングした時点で、企業側のニーズと外部人材の得意領域が合致しているはずですが、その後の情報共有や相互理解が不十分だと、結果的に事業で思うような成果が得られない可能性があります。
外部人材の能力を疑う前に、事業のコンセプトや内容の説明が十分かどうか確認する場を設け、誤解があれば早めに軌道修正する体制づくりをおすすめします。リモートで各自が対応している状況においては、定期的なミーティングの開催や、コミュニケーションツールを介した能動的な進捗確認も有効です。
また、外部人材の能力を十分に発揮してもらうためにも、ミスマッチを感じる際は、人材の交代を依頼することも必要です。社外の人材を活用するには、適切なパートナーが必要です。
社内の人材には得意領域を任せ、外部人材とのOJTで経験と自信をつける
社内の人材に活躍してもらうためには、適所に配属した上で、OJT(On the Job Training)を実施するのが得策です。苦手な領域を任せていると業務負担は大きくなり、人材が疲弊してしまうため、得意な領域で実務を任せていきましょう。
ただし、未経験の業務を投げるのではなく、必要な要素を説明した上で実践に取り組んでもらい、必ずフィードバックや意見交換を行う必要があります。
「正当に評価されている」「頑張りを見ていてくれている人がいる」「意見を取り入れてもらえる」という安心感があれば、人材は潜在能力を発揮しやすく、離職率も低下します。
外部人材との協業により、社内の人材を育てる
社内と社外で人材を分断するのではなく、人材同士を交流させることも大切です。例えば、多少難易度が高い業務でも、経験豊富な外部人材とともに取り組めば、大きな失敗を回避できます。
つまり、業務を通して経験を積ませながら、社内の人材に自信をつけられます。いずれは、リーダーに抜擢できるような人材も社内で育てられるでしょう。社内でイノベーションを推進できる仕組みを、外部からインストールしてもらうことが良いでしょう。
方法3. イノベーションを起こす「起業家思考」の人材に育てる
事業を推進するためのスキルと、周囲と協業できる人間性の両方を兼ね備えた人材が新規事業には必要です。そのような人材は「起業家思考」を持っている傾向があり、外部人材の場合は「アントレプレナー(起業家)」、社内の場合は「イントレプレナー(社内起業家)」と呼ばれています。
現在、国内では起業家マインドを育てるアントレプレナー教育が徐々に広がっており、日本政府も「次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)」というプロジェクトを推進しています。
■ 起業家思考を育成するポイント
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このように基礎を学び、問題解決について考え、当事者意識を持ち、そして実践まで取り組むことを、一人ひとりに意識してもらうことによって、起業家思考を育めます。
特に新規事業の場合は、育成したい人材を事業に関わらせるだけでなく、メンバーとしての意見を聞き、業務を任せながら、能力を発揮させることもポイントの一つです。
参考:
次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)|文部科学省https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/edge/1346947.htm
人材育成・人材活用によって新規事業を成功させた事例3選
最後に、従来とは異なる人材の育成や活用を取り入れたことで、新規事業を成功させた企業の実例を3つ紹介します。
成功例1. 新規事業のPMを外部人材が担い、想定を超える導入実績に【株式会社竹屋旅館】
株式会社竹屋旅館では、「静岡に世界から人を集めたい」という理念があったものの、プロジェクトを進められる人材が社内にはおらず、外部人材を活用することにしました。社長以外のメンバーはすべて外部人材となり、それぞれが得意分野のマネジメントや制作進行を担当しました。
その後、事業を推進するために新会社を立ち上げ、外部人材は新たな視点で地域活性化事業を実現していきました。結果的に、1年半後には制作した音声ガイドの導入実績は20件以上に達し、さまざまな賞を受賞したことで2社の知名度アップにも成功しています。
参考:
経済産業省 関東経済産業局「外部人材活用ガイダンス・事例集」2019年,p.38-39
https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/jinzai/data/kengyo_hukugyo_guidance.pdf
音声コンテンツ事業|株式会社Otono
https://otono.site/business_voice/
成功例2. 外部人材が社員の意識を改革し、新商品開発も推進【株式会社 羽二重豆腐】
大豆加工食品の製造・販売を行う株式会社羽二重豆腐は歴史のある企業で、社内には「従来を踏襲する」という文化が根付いており、既存の物流体制の改善や、新商品開発の壁となっていました。そこで、外部からサポート人材を招き、経営課題を具体的に洗い出してもらい、その解決に向けて一緒に取り組みました。
その結果、外部人材はマーケティング手法に関する助言のほか、自社内だけでは汲みとりきれない情報を集める役割を果たし、プロジェクトを推進しました。さらには、社長側の気持ちを社員に伝える際の仲介役も務めています。
参考:社員の危機意識に課題を感じ、外部人材を採用|ミラサポplus
https://jirei-navi.mirasapo-plus.go.jp/case_studies/1711
羽二重豆腐株式会社
https://habutae.co.jp/
成功例3. 外部人材のヒアリングや提案により、新事業を4ケ月で開始【大手運輸会社様】
最後にSEEDERが関わらせていただいた事例を紹介します。コロナ禍によって本業の経営が大打撃を受けた大手運輸会社様では、新たな収益の柱となる事業を求めていました。しかし、自社にその分野の知見がなく、企画・立案のノウハウもなかったため、どのように進めていけばよいかがわからない状況でした。
そこで、SEEDERのコミュニティに属している人材がヒアリングを行い、アイデアの提案やコンサルティングを行いました。その結果、実現可能な案が明確になり、4ケ月程度でプロジェクトを進められるようになりました。
参考:コロナ渦で新規事業の事業化が急務に。大手運輸会社で4ヶ月で事業化を成し遂げた事例
まとめ
本記事では、新規事業の失敗の要因として「人材不足」を挙げ、その解決策として社内人材の育成と、外部人材の活用を成功事例とともに紹介しました。
人材不足に対処しているかどうかが、企業のその後の経営状況や事業の成否に関わってくるため、新規事業のメンバーに経験豊富な外部人材を取り入れることをおすすめします。それにより、十分な人材を確保しながら新規事業を推進し、社内人材も育成できます。
さらに、社内の業務量の軽減にもつながるため、人材流出や離職の防止にもなり、知識やノウハウを社内に蓄積していくことが可能です。本記事を参考に、人材に関する自社の課題を解消し、新規事業の成功につなげてください。