刻一刻と変わっていく市場や顧客ニーズに企業が対応していくためには、既存事業とは異なるビジネスモデルの確立が効果的です。新たな事業を立ち上げることができれば、経営状況を改善し、自社をよりよく発展させていくことが可能となります。
実はこの新規事業の成功には、組織風土が大きく影響します。しかしながら、既存事業を重んじるあまり、イノベーションを起こすのが難しい体制になってしまっている企業が多くあります。また、そのような組織風土が「新規事業のアイデアや人員が集まらない」「現場からの反発があり、事業計画がなかなか前進できない」という問題につながっています。
そこで本記事では、新規事業開発に失敗しやすい組織の特徴や、成功率を高めるための組織開発のポイントについて解説していきます。加えて、経営層・人事部門・事業の責任者やメンバーの役割も解説していますので、「組織の現況や社員の意識をどのように変えていけばよいのか」と悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。
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新規事業の成功には「組織の風土」が大きく影響する
新規事業の立ち上げを検討する際には、まず自社の組織風土を見つめ直し、「よりよくできることはないか」と考えることが重要です。もし組織に新規事業を阻むような特徴が見つかれば、イノベーションよりも先に「組織開発」が必要となります。
企業によってそれぞれ、「これまでのノウハウが蓄積されていない」「立ち上げ経験が乏しい」「新規での成功経験がしばらくの間ない」という悩みがあると思いますが、一般社団法人日本能率協会の調査によると、いま企業に求められているのは「社員一人ひとりが自律的に学習し、成長する組織風土」ということです。
つまり、令和の時代に企業を発展させていくためには、組織の在り方そのものに向き合い、社内の人材に力を発揮してもらえる状態にしなければなりません。
参考:一般社団法人日本能率協会「2021年度第42回 当面する企業経営課題に関する調査」http://www.jma.jp/img/pdf-report/keieikadai_2021_report.pdf
■ 新規事業には熱意と体力と一定の期間が必要になる
「既存事業とはまったく異なる、新たなビジネスを成功させたい」という場合、そこに関わる方々の熱意や体力が必要となります。なぜかというと、事業の新規性が高いほど、下記のような特徴が当てはまるためです。
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そのため、新規事業の立ち上げ期には特に、メンバーの意識を統一し、失敗を恐れ過ぎず、行動していくことが大切といえます。
しかし、たとえメンバーが効率よく積極的に行動していても、所属する企業が日本の伝統的な組織体制のままでは、事業をうまく推進できません。
新規事業の開発に失敗する組織が抱える2つの課題
実は、新規事業開発がうまくいかない組織が抱える課題は、大きく分けて2つあります。1つは「組織に深く根付いた空気感」です。外から見れば非合理的なことであっても、長年の慣習によって、社員の意識に浸透した固定観念などが当てはまります。
そして、もう1つは「新規事業の不確実性に対する許容度」です。日本の企業では、自社の主力事業を生み出し、自社の成長や拡大に貢献した社員の発言力が強く、年長者の声が優先される傾向もいまだにあります。特に過去に大きな成功体験がある場合、失敗も多い新規事業はあまり歓迎されません。
ここからは、それぞれの課題について詳しく解説していきます。
課題1. 組織に深く根付いた空気感
新規事業がうまくいかない組織では、「伝統を軽視している」「既存事業のリソースを割く価値があるのか?」「儲かるのか?」といった考え方が社員に浸透している傾向があります。例えば、下記のような空気を自社で感じたことはないでしょうか。
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上記が当てはまる組織は、新規事業向きでない状態になっているといえます。そのような環境下では、事業を立ち上げられたとしても、内向きの議論になってしまう可能性が高く、創造できたとしても、「顧客ファースト」ではなく、新規性もあまりないビジネスモデルになることが懸念されます。
課題2. 新規事業の不確実性に対する許容度
経営陣に「新規事業で自社の現状を打破したい」という考えがあっても、既存事業の関係者や現場の社員から抵抗される可能性があります。これは、新しいことにチャレンジした経験がない方にとって、新規事業の不確実性が不安要素として捉えられるためです。
現状を維持したい経営陣や社員からは「資金や資源を無駄遣いしている」「どうせ失敗するだろう」といった批判が集まることも少なくありません。また、現場からよいアイデアも出てきません。
このような課題を解決するには、いったいどのように組織を変えていけばよいのでしょうか。次章より、新規事業を成功に近づけるための「組織開発」について解説していきます。
組織開発によって新規事業を成功させるためのポイント3つ
新規事業を立ち上げる社員が育っておらず、自社にノウハウもない場合、事業の失敗は担当者個人の問題ではなく、組織全体の問題だといえます。特に、長期にわたって既存事業に注力してきた企業の場合、まずは組織風土を変えることに着手したほうが、新規事業の成功率を高められます。
ここからは、前述の課題の解決策として「組織開発」について解説します。組織をどのように変えていけばよいか、3つのポイントに分けて記載しましたので、ぜひ参考にしてみてください。
ポイント1. トップダウンで意識改革を起こす
社員に「新規事業に取り組むように」と促し、新たなビジネスモデルを提案することを求めるだけでは、組織風土は変えられません。ルールや体制など、目に見える部分を整えるよりも、全体の空気感や固定観念を一新することを意識してください。つまり、負の伝統を断ち切ることが必要なのです。
最も有効な方法は、経営者や役員などのトップ層が率先して、新規事業を支援する姿勢を示すことです。意思を示すことによって、社内の空気感を変えることができます。また、新規事業に関わるメンバーが社内外からの協力を得やすくなるほか、後ろ盾がある安心感で、やる気や熱意といったモチベーションを保ちやすくなります。
他にも、社内の暗黙のルールに切り込むような制度を構築したり、中期経営計画で戦略を打ち出したり、事業責任者の権限を大きくしていくことで、意識改革の推進が可能です。
また、企業によっては、経営者が新規事業の開発を先導することもあります。そのような場合には、初期の段階から外部人材を招くことで、代わりに手を動かしてもらうことができます。
ポイント2. 失敗にも寛容な体制を整える
新規事業の失敗は「絶対に避けるべきもの」ではありません。組織全体が新規事業の失敗に対し、寛容になることのほうが重要だといえます。
リスクをとって挑戦しても、評価を下げられる恐れがない組織は社員にとって魅力的です。自社に「新規事業で失敗しても元のポストに戻れる、あるいは昇進できる」という制度を構築すれば、「新規事業に携わりたい」と考える社員が増加していきます。また、新規事業の業務はスキルアップの機会にもなるため、副業や離職を選択していた人材の流出も防げるでしょう。
ただし、自社を守りながらイノベーションを起こしていくためには、「どこまでであれば、経営への影響を最小限に抑えられるか」という事業の撤退ラインを決めておくことも必要です。
ポイント3. アイデア出しや情報共有のための場を設ける
新規事業のアイデアは、個人の好奇心や興味・関心、そして日々抱いている課題感に由来します。よりよいアイデアを集めるためには、現場のマイナスの声や、個々の社員が抱いている感情・実情などを吸い上げられる組織にしていくことも大切です。
ただし、近年はリモートワークの浸透によって、各々の仕事の全体像やゴールが見えづらく、人の心が組織から離れやすくなっています。現場との話し合いや対話によって事業を推進していくためにも、できれば下記に取り組んでみてください。
特に「責任の所在を明確にする」ことは社員の心理的安全性の確保につながり、アイデアも出してもらいやすくなります。
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組織を徐々に開発し、新規性の高い事業への反対や非協力的な態度を、提案や支援に変えることができれば、事業を推進しやすくなります。また、不毛な議論による担当者の疲弊を減らすことにもつながり、新規事業開発にかかる期間も短縮できるでしょう。
組織内の一人ひとりが役割を果たすことが大切
新規事業は、外部環境が激変する中で企業が成長していくためには欠かせないものです。そして、事業の成否には、経営層と社内の各部門、そして事業を推進するメンバーが、各々の役割を果たせるかどうかが関わってきます。
ここでは、新規事業におけるそれぞれの役割について、解説していきます。
経営層は「支援」に徹する
新規事業の開発プロジェクトにおいて経営層に求められるのは、事業の担当者を支え、助けることです。人材のチャレンジを後押しすることで、結果的に自社の資産を高められます。また、自社の方針や資産、知見等を共有することで、事業の成否にも関わる「自社の理解度」を高められます。
現状、自社内で新規事業の位置づけが「左遷」のような意味合いを持っているのであれば、「新規事業のメンバーになりたい」と社員が挙手する可能性は低いと考えられます。事業のアイデアを募ったとしても、おそらく出てくるアイデアは無難で、既存事業をコピーしたようなものになるでしょう。
組織を変えていくためには、新規事業につきものである「失敗」を容認し、「何かあれば責任は上がとる」という姿勢でいることも大切です。そのような姿勢を見せることで、現場は動きやすくなり、事業を成功に近づけられるでしょう。
ただし、経営が傾くほどの失敗は防がなければなりません。SEEDERでは、「未来洞察」というサービスを提供しています。これは未来の顧客ニーズを予測するもので、事業開発の際に考えるべき今から5年後の社会環境の変化を分析し、事業のアイデアが実行すべきものかどうか、見極める際に役立っています。
人事部門は「人材育成」の体制を整える
人事部門は、新規事業を「人材を育成できるプロジェクト」と捉え、支援することが重要です。すでに「新規事業は大変だ」という認識が社内に浸透している場合は、自社がイノベーションに期待していることや、開発への参画がスキルアップの機会になることを広めましょう。前述の経営層の意思表示を繰り返し周知していく方法も効果的です。
「新しいことに挑戦しても大丈夫」「改善提案が自社のためになる」と感じられれば、社員一人一人に「自社をよりよく変えていくためにどうすればよいか」という当事者意識が生まれ、正の連鎖が生まれることもあります。
加えて、新規事業に水を差すような人事異動や部署異動は行わないこともおすすめします。国内企業ではよくあることですが、事業の立ち上げ途中で人事異動や部署移動があるとわかっている中で、やりがいや熱意を継続することは困難です。特に責任者になった方については、最初から最後まで取り組めるように配慮しましょう。
そして、新規事業の立ち上げ期には、適切な人材の選定に尽力しましょう。向いている人材の選定や交渉を担うことで、事業の成功率を高められます。ただし、昨今の人手不足の状況下では、自社内で十分な人材を集めるのは困難といえます。新規事業の場合は、初期段階に多くの作業が発生するため、最初は社員同様に手を動かしてくれるような人材を集めることをおすすめします。
ある程度事業が定まってくれば人数を見直し、事業が軌道に乗れば、外部人材に頼らず、自社の社員のみで回していくことで、人件費を抑えられます。
新規事業の責任者(リーダー・PM)は「創造・推進」を実行する
新規事業を統括する責任者は、孤軍奮闘になりがちです。上からの同意を得られず、他部署からは「資金の無駄遣い」「伝統的でない」「現場をわかっていない」などと言われることがあります。そのような場合、体調を崩してしまいかねません。
しかしながら、このような問題は、前述した経営陣の意思表示や人事部門による変革、組織的な支援によって、防ぐことが可能です。
責任者自身には、リスクを恐れ過ぎず、判断していくことが求められます。加えて、「絶対に実現する」という熱意も必要です。また、外部人材の協力を得ることで、作業負荷を減らし、本当に考えたいことに時間をかけられます。
新規事業の担当者(メンバー)は「能動的」に行動する
プロジェクトメンバーは、一般的に6~8人程度にするほうがよいと言われています。少人数にすることで、情報連携や判断等を行いやすくなるメリットがあります。
メンバーを選定する際には、冒頭にもお伝えしたとおり、受け身ではなく、能動的な人材を選ぶことをおすすめします。また、社内外との調整を行える人材を加えることで、事業に対する反発や認識のズレを回避できるほか、支援も受けやすくなります。現在の組織風土によっては、そのような調整者も外部から招くほうが、社員の率直な意見を集めやすくなる場合もあります。
その他にも、新規事業に向いている方にはさまざまな性質や能力の傾向があります。詳しくは下記の記事を参考にしてみてください。
まとめ
新規事業の成功率を高めるためには、まず自社の組織風土を変えていくことが重要です。本記事では、新規事業で失敗しやすい組織の傾向として、組織全体に古い慣習や価値観が根付いていることや、新規事業の不確実性への不安を挙げました。
そのような現状を打破し、新規事業向きの組織風土に変えていくためには、経営層の意識や人事部門の体制構築によって、社員一人ひとりの意識を変革していくことが大切です。また、外部人材を招くことで、事業責任者やメンバーの負担を軽減できます。
本記事で紹介したポイントと自社の現状に乖離がある場合は、本記事を参考に組織開発に取り組んでみてください。