さまざまなモノが店頭に並んでいる中、顧客は無自覚に「好ましい」と感じる商品を選び取っています。そのような顧客自身が気づいていない本質的な欲求が「インサイト」です。
そして、3年後、5年後、10年後に顧客ニーズが高まるビジネスをいま立ち上げるためには、企業がこのインサイトをとらえ、それをもとにアイデアを出していく必要があります。それにより、顧客が気づいていない感情を刺激する商品・サービスを生み出すことが可能です。
本記事では、これからのビジネスの成功率に影響を与えるインサイトについて、どのように把握すればよいのか、最新のビジネス事例や調査の手順とともに解説していきます。また、調査方法も種類別に挙げていますので、新規顧客開拓・新規事業開発を検討されている方は、ぜひ参考にしてみてください。
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インサイトは、新規事業のアイデアの源である
「インサイト」とは、これまでになかった価値を生み出すような洞察や見通しのことで、顧客自身がまだ自覚しておらず、言語化できていない感覚や気持ちに潜んでいます。そして、そのような感覚・気持ちは、ターゲット一人ひとりを深く探らなければ見つけることができません。
そのため、数値化された定量データではなく、インタビューや観察などの調査が必要です。調査後には、対象者が「なぜ、そのような行動を起こしたのか」「本当は何を求めているのか」という視点でインサイトを探っていきます。
また、そのようなインサイトは、従来とは異なる価値観である可能性が高く、企業が新商品・新サービスを創造するためのアイデアの源になり得ます。インサイトから生まれたアイデアを実現すれば、すでに飽和状態の市場で競争するのではなく、新たな市場を開拓していくことも可能です。
インサイトなしで、顧客のニーズを先読みするのは難しい
価値あるインサイトの発掘は、事業の成否を左右する非常に重要なプロセスといえます。例えば、市場調査やデプスインタビューなどの方法を用いてインサイトを探りますが、単にデータや情報を収集するだけでは不十分です。真にインサイトをとらえるためには、集めたデータや情報の背後にある意味や感情を考え、それを新たに結びつけていく作業も必要となります。
また、インサイトをもとに、3年後、5年後、10年後に高まっていく顧客のニーズ、そして市場の動向を先読みすることで、価値あるアイデアを生み出せます。このような発想法は「未来洞察」とも呼ばれており、イノベーションを起こしたい企業において導入されています。
インサイトの発掘や未来洞察を行うためには、調査にかける時間や人員、収集したデータから兆しを見つけ出す高度なスキルが必要です。ノウハウが不足している場合は、経験豊富な人材や専門の調査会社への委託をおすすめします。下記の資料に、データを収集可能な会社を調査手法別にまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
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インサイトによって新しいビジネスを生み出した事例
ここでは、インサイトをとらえ、新規事業の開発に成功した企業事例を3つご紹介します。
事例1. 空港付近のホテル利用者の本音をもとに、ホテルを新規開業【星野リゾート】
ラグジュアリーホテルのほか、都市観光向けのホテルなどを全国で展開している株式会社星野リゾートは、2023年3月に同社初の空港隣接型のエアポートホテル「OMO関西空港by星野リゾート」をオープンしました。
同社では独自の調査の結果、エアポートホテルの利用者の65%が「不満はない」と回答していたものの、その選択基準が「価格・アクセス・清潔さ」になっている点に着目。ホテルが寝るためだけに利用されていることに気づきました。
そこで同社は、エアポートホテルを自社流に解釈し、旅に出かける前、旅から帰ってきた後の時間も楽しめる空間を設計。さらに、フライト情報の掲示板や近隣の街歩きマップなどのサービスも用意しました。これまでとは異なるエアポートホテルとして、注目を集めています。
参考:
OMO関西空港|星野リゾート【公式】
星野リゾートが手掛けた初のエアポートホテルに行ってみた。関西空港の隣に空と飛行機を感じるスマートな700室が誕生! 「OMO関西空港 by 星野リゾート」|トラベル Watch
OMO関西空港の全容を大公開!星野リゾート初のエアポートホテル『OMO関西空港 by 星野リゾート』とは? | aumo
事例2. 緊急時の購入でも気に入るものを買いたい欲を満たす、PB商品を展開【ファミリーマート】
株式会社ファミリーマートでは2020年以降、店内やオンラインショップにて同社オリジナルのブランド「コンビニエンスウェア」を販売しています。同ブランドはファッションデザイナーである落合宏理氏との共同開発により、便利さだけでなく高いデザイン性や環境への配慮を備えた商品としてリリースされました。
そのアイデアの源となったのは、顧客が出張や雨などの緊急時に靴下などを買う際に抱いていた「本当は日常的に使いたいものを買いたい」という感情でした。
同社はそのような感情を満たすアイテムとして、ジェンダーレスかつカラフルな商品をリリース。さらに、著名人に着用している画像や動画を投稿してもらったり、「#ファミマソックス」というハッシュタグで拡散を後押ししたりと積極的なマーケティング活動も実施しました。
その結果、「あの商品だから買いたい」という顧客の欲求を高めることに成功し、新規顧客の獲得や既存店の売上アップにつなげています。
参考:
コンビニエンスウェア|商品情報|ファミリーマート
ファミリーマートが展開する「コンビニエンスウェア」 2021年度 グッドデザイン賞を受賞!|ニュースリリース|ファミリーマート
ファミマのソックスが700万足突破。コンビニ衣料を「仕方なく」から「目的買い」に変えた戦略とは | Business Insider Japan
最新決算が発表間近! コンビニの2022年売上ランキングをおさらい|ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
事例3. お湯をいれずにかじりつきたい。顧客の願いを具現化した「0秒チキンラーメン」【日清食品グループ】
日清食品グループでは、同社を代表する商品である「チキンラーメン」をもとに、お湯を要らずの「0秒チキンラーメン」を2022年にリリースしました。同商品は従来品よりも塩分をおさえ、あっさりと食べやすい味付けに仕上げられています。
「お湯をいれずに、そのままかじりつきたい」という顧客のニーズを満たした同商品は、販売後、一時販売を休止するほどの大ヒットを記録。2022年9月末時点で、累計販売数1,000万食を達成しています。
参考:
0秒チキンラーメン | 日清食品グループ
2022年「業界別ヒット」総ざらい 新発想の即席麺が1000万食|日経クロストレンド
ご紹介した3つの事例に共通しているのは、どれも企業側が先に立てた仮説ではなく、顧客が本当はどのように感じて、何を求めているのかに着目している点です。顧客の本心を追究し、それを叶える商品・サービスを新たに開発し、ビジネスとして成功させています。
顧客のインサイトをとらえるためのリサーチ方法4つ
インサイトを発掘するためには、顧客を十分に調査しなければなりません。ここでは、そのリサーチ方法を大きく4つに分けて紹介していきます。
【4つのリサーチ方法】
方法1. 質問する |
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方法2. 傾聴する |
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方法3. 実験する |
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方法4.観察する |
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なお、本章でご紹介している調査方法や、それを実行可能な企業をまとめたカオスマップを公開中です。外注先の検討時に役立つ内容となっています。
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方法1. 質問する
アンケートなど、事前に設問を用意し、ターゲットに質問していく調査方法です。
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ネットリサーチ、郵送調査
アンケートや質問用紙などの調査票を対象者に送り、回答を収集します。ネットリサーチの場合は、インターネットを介して行えるため、コストを抑えながら、効率的に実施することが可能です。また、インターネットの普及前から行われていた郵送で行う郵送調査も、いまだ一部で用いられています。
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電話調査
電話を使ってアンケート調査で、回答率が比較的高いという特長があります。ネットリサーチや郵送調査に比べ、短い時間で数多くの回答を得られる調査として、市場調査などに用いられています。
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デプスインタビュー
カウンセリングによく似たかたちで実施する調査で、特定のテーマに関する参加者の行動や意見をデータとして収集します。参加人数の少なさにより、1人ひとりの感情を深く掘り下げることが可能です。
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グループインタビュー
2人以上の参加者に、テーマにもとづくディスカッションを促し、参加者による自由な会話をデータとして収集する調査になります。このグループインタビューでは、調査者が十分に計画を立てた上で、議論しやすい環境をつくることが重要です。
参考:失敗しない市場調査とは?リサーチ会社が伝授する調査方法5ステップ
方法2. 傾聴する
傾聴とは、文字どおり相手の会話に深く耳を傾けることです。この調査では、ターゲットに寄り添い、肯定や共感を示しながら、より深い感情や気持ちをとらえます。
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MROC(エムロック)
MROCは「Market Research Online Community」の略称で、対象となる人々に一定期間、オンライン上のコミュニティに参加してもらい、その上でアンケートやインタビューを実施するという調査方法です。コミュニティ内での行動を観察することで、視点を変えながらインサイトを探ることができます。
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ソーシャルリスニング
事前に質問を用意するアンケート調査とは異なり、ソーシャルリスニングでは対象者の自然な発言からインサイトを探ります。そのため、事前準備にかかる時間が少なく、データが欲しいタイミングですぐに実行することが可能です。詳しくは、下記の記事をご参照ください。
参考:ソーシャルリスニングとは?企業の活用事例とツールを使った実施手順
方法3. 実験する
プロトタイプやサンプル品を用いた実証実験も、定性データを集める調査として有効です。
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ホームユーステスト
ホームユーステストは、いわゆる「商品モニター」です。対象者に商品やサンプル品などを試してもらい、後日感想や意見を収集します。そこからインサイトを発掘することができるほか、アイデアの検証を行う際にも有効です。
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会場調査
イベント会場内で、そのイベントに対する満足度や意見などの情報を集める方法です。定量的な分析のほか、特定のターゲットに向けたインタビューによって、定性データを収集することもできます。
参考:失敗しない市場調査とは?リサーチ会社が伝授する調査方法5ステップ
方法4.観察する
観察は、顧客をより理解するために大変有効な方法です。リリース済みの商品・サービスだけでなく、顧客の好み・行動を知ることができる調査といえます。
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店頭・街頭調査
店頭や街頭などで人々の行動や消費動向を観察する方法です。調査の目的によっては、特定のターゲット層に対し、アンケートやインタビューを実施する場合もあります。インサイトを得るためには、アンケート調査以上に、調査員の募集や当日の動きなどの入念な準備が必要となります。
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覆⾯調査
調査員が一般の利用客などの中に紛れ、商品やサービスを実際に体験した上で、評価する調査方法です。店内の様子や接客態度、利用客の行動などを観察し、インサイトを探ります。
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エスノグラフィー(行動観察調査)
特定の集団のメンバーの行動を観察する調査方法です。言葉よりも行動や慣習、抱いている信念に注目することで、インサイトを得ることが可能です。
参考:失敗しない市場調査とは?リサーチ会社が伝授する調査方法5ステップ
インサイトをとらえるための3ステップ
最後に、新規事業開発のアイデア源になる、良質なインサイトをとらえるための手順を解説します。インサイトを見つける際に必要な3つのステップは、以下のとおりです。
ステップ1. 課題の定義
ステップ2. データ収集 ステップ3. インサイト抽出 |
いきなり大量のデータを収集しても、アイデアに役立つインサイトを見つけるのは困難です。また、顧客の声を聞かず、社内で仮説を立ててデータで検証していく方法も、未来のニーズをとらえる場合には適しません。仮に顧客の潜在ニーズをとらえられたとしても、ありきたりなものになりやすく、事業化するアイデア源としては心許ないものになるでしょう。
その原因は、顧客や市場に対する理解の不足です。そのような事態を回避するためにも、ステップ1から順に取り組むことをおすすめします。
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ステップ1. 課題の定義
まずは、調査の対象となる市場や商品・サービス、そして調査のターゲットとなる消費者を明確にします。「どのような理由で、どのようなことが起こっているのか」「ターゲットの消費傾向がどのように変化しているのか」を考えておくことで、ステップ2で行うインタビューの設問を考えやすくなります。ただし、仮説をしっかりと立てる必要はありません。
また、あわせて業界全体のトレンド、商品やサービスに関わる市場の変化なども見直しておくとよいでしょう。これまで見過ごしていたこと、十分に認識できていなかった部分が、マイナスの要因として顧客に影響していることも少なくありません。
ステップ2. データ収集
次は、データの収集に移ります。このとき、取り扱うデータは定量データと定性データの大きく2つに分けられます。(参考:
インサイトは、顧客自身が認識できていない、言語化するのが難しい欲求です。そのため、まずは消費者の行動や感情、価値観などの数値化できないデータを、観察やインタビューなどを実施し、引き出していくことが必要です。
例えば、顧客が商品を選択する際の「なんとなく好き」「似ているけれど、商品Bのほうが好み」といった選び取りの行動には顧客の本音があらわれがちです。それに対し、「なぜ、そのような感情を抱くようになったのか」「なぜ、商品Aよりも商品Bを好ましいと感じたのか」といった、感情の変化の経緯や、そのような行動の背景を探っていきます。場合によっては、取材相手の声色や表情も有用なデータとなります。
顧客について深堀りを行った後は、その根拠となる定量データを収集していきます。これは、市場の動向や需要の変化に関する数値をもとに、定性データの裏付けを行うためにも必要です。
ステップ3. インサイト抽出
最後は、収集・分析したデータや情報の解釈によって、顧客の思考や行動の要因をあらわすインサイトを言語化していきます。
そのためには、顧客の観察やインタビューの結果をまとめるだけではなく、そこから意味を読み取っていかなければなりません。顧客の本音を探りながら、本当は何を求めているのか、真のニーズは何なのかを明らかにしていきましょう。
仮説ベースではなく、あくまで顧客の深層ベースで行うインサイト抽出には、ノウハウも必要となります。下記に、社外の高度人材がインサイトをとらえるプロジェクトに参画した際のお話を掲載していますので、ぜひ参考にしてみてください。
クライアントの熱い想いを引き出したい。ギグワーカーR.N様インタビュー
ネクストステップ:アイデアの発想と評価
インサイトをとらえることができれば、次はアイデア出しのプロセスへと進みます。このとき、3年後、5年後、10年後の未来の顧客ニーズを獲得するアイデアを出す「未来洞察」を行うことで、成功する可能性が高い新規事業を開発できます。そのためには、アイデアを出した後に、それを評価するプロセスも不可欠です。
【アイデア発想】
抽出したインサイトをもとに、顧客に価値を提供できるアイデアを考えます。ブレインストーミングやマインドマップなどの手法を用いれば、発想がスムーズになるでしょう。
参考:新規事業のアイデア出しを加速させる3つのフレームワークとは?考え方のコツもご紹介 – JINCHI
【アイデア評価】
発想したアイデアを評価し、実現可能性や市場性などの観点から優先順位をつけていきます。このとき、プロトタイプによる実証実験を行い、アイデアの妥当性や改善点を検証することで、その事業が世の中に必要なものかどうか、顧客が求めているものかどうかを明らかにすることができます。
参考:新規事業開発のプロセス10個をプロジェクト初任者向けに解説!検証・改善方法も紹介 – JINCHI
まとめ
インサイトは、顧客自身がはっきりと気づいていない感情や感覚に隠れています。発見したインサイトをもとに、未来洞察を行えば、これまでにない商品・サービスを生み出すことも可能です。
また、顧客にとって価値のあるビジネスを創造するためには、定量的な調査だけでなく、定性的な調査が重要となります。ターゲットの選定や事前準備など、多くのリソースが必要となるため、自社の予算や人的リソースを見直し、必要に応じて、外部委託もぜひ検討してみてください。
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